インクルーシブミュージアムガイド

安心して来館できるために:ミュージアムでの急な体調不良や困りごとへの低予算対応策

Tags: 来館者サポート, 緊急対応, マニュアル作成, スタッフ研修, 低予算, 小規模ミュージアム

すべての来館者が安心して過ごせるために

ミュージアムは多様な人々が集まる場所です。多くの方は問題なく滞在されますが、中には予期せぬ体調不良を起こされたり、精神的な不調により落ち着きを失われたり、あるいは単に館内で道に迷われたりといった「困りごと」に直面される場合があります。特に高齢の方、小さなお子様連れの方、障害のある方、海外からの旅行者など、普段と異なる環境下では、些細なことでも不安を感じやすくなることがあります。

これらの困りごとに対して、ミュージアム側が適切に対応できる体制を整えておくことは、来館者全体の安心感を高め、インクルーシブなミュージアムづくりを進める上で非常に重要です。しかし、専門の看護師や救急隊員を常駐させることは、多くの小規模ミュージアムにとって現実的ではありません。限られた予算と人員の中で、学芸員としてどのような準備や対応ができるのでしょうか。本稿では、低予算でも実践可能な、来館者の急な体調不良や困りごとへの対応策について具体的にご紹介します。

起こりうる「困りごと」を想定する

まず、どのような「困りごと」が起こりうるかを具体的に想定してみましょう。

これらの想定に基づき、必要な準備を進めます。

低予算でできる具体的な準備

大規模な設備投資や人員増強が難しい場合でも、以下の項目は比較的低予算で実現可能です。

1. 簡易マニュアルの作成と共有

2. スタッフ間の情報共有体制の強化

3. 必要な備品や情報の整理・整備

4. 館内表示と情報提供の工夫

困りごとが発生した場合の対応フロー例

  1. 状況の発見・把握: 来館者からSOSがあったり、様子がおかしいことに気づいたりした場合、まずは安全を確保し、落ち着いた声かけで状況を確認します。「大丈夫ですか」「何かお困りですか」など、分かりやすい言葉で話しかけます。
  2. 初期対応: 必要に応じて、その場で一次的な対応を行います(例:怪我の手当、水分補給の推奨、静かな場所への誘導)。
  3. スタッフ間の連絡: 状況を責任者や他のスタッフに迅速に報告し、応援や指示を仰ぎます。作成したマニュアルに基づき、誰が次に行うべきかを確認します。
  4. 静養スペースへの誘導(必要な場合): 落ち着ける静養スペースへ安全に誘導します。付き添いの方がいる場合は、その方にも状況を説明し、協力を求めます。
  5. 専門機関への連絡(必要な場合): 状況が深刻な場合(例:意識がない、激しい痛みがある、発作が止まらない、自分で歩けないなど)、迷わず救急車や医療機関に連絡します。警察への連絡が必要な場合もあります(例:明らかに犯罪に巻き込まれた可能性がある、徘徊など)。
  6. 情報共有と記録: 対応に関わったスタッフ間で情報を共有し、どのような状況で、どのように対応したかを簡潔に記録しておきます。この記録は、後の振り返りやマニュアル改善に役立ちます。
  7. 事後対応: 来館者の状況に応じて、関係機関への報告や、今後の再発防止策について検討します。

実施上の考慮点

まとめ:来館者の安心感を育むために

来館者の急な体調不良や困りごとへの備えは、インクルーシブなミュージアムづくりの地道ながら重要な一歩です。大掛かりな改修や予算をかけずとも、スタッフ間の情報共有、簡易マニュアルの作成、既存の備品やスペースの活用といった工夫で、多くの状況に対応できる体制を構築できます。

これは単なるリスク管理ではなく、「もしも」の時にも「このミュージアムなら安心だ」と思っていただけるような、信頼関係を築くための取り組みでもあります。学芸員として、展示や資料だけでなく、来館される一人ひとりの安全と安心にも心を配り、できることから実践してみてはいかがでしょうか。継続的な改善を通じて、すべての人が快適に楽しめるミュージアムを目指しましょう。